「日本国憲法」入門【イズミの書評#56】


はじめに:焼け跡の憲法

 前回大日本帝国憲法の書評をいたしましたが、いかがでしたでしょうか。

 様々な視点から考察することができると思います。私がまとめた「大日本帝国憲法」も、違う、誤っている、との反論があるかもしれません。しかし、それがまた楽しみでもあります。

 さて、日本国憲法です。戦争の敗北に伴って1946年(昭和21年)公布、その翌年に施行されました。これにより、明治以来続いてきた大日本帝国憲法は終焉を迎え、あらたな日本がスタートすることになりました。

 この憲法は、日本人だけで作ったものだけではありません。日本人が作った草案や、占領軍としてやってきたGHQの人たちの草案、そしてほかの国々の憲法。多種多様な視点から検討され、作られたものでした。周りはまだ、空襲で焼けた街並みが広がっている。そういう状態の中から、日本は国の仕組みを作り直しました。

 結果として、新憲法は大日本帝国憲法とは大きくその性質を異なるものにしました。天皇は国家元首から象徴に姿を変え、陸海軍は消滅、日本は戦力を永久に持たないという旨を憲法に記載するに至りました。

 現在、この憲法は与党を中心として改憲するべきであるという議論が出回っていますね。憲法を改正するというのは、実はかなり大変なことなのです。何しろ憲法は「国の最高法規」、つまり日本の一番大事なルールですからね。皆さんも私も一緒に、憲法について考えてみませんか?

前文

 まずは前文からです。前回はちょっと紹介しなかったんですけど、実は前文って、とても大事なことなのです。何しろここには、この憲法のコンセプトが書かれています。憲法の目的、つまり、日本国はこれこれこういう国で、こうあるべきだ!ということが書かれているのですね。少しだけ見てみましょうか。

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。

…なるほど、良く分からん。一文が長いですねえ。

 これは、憲法の制定理由が書いてあります。ちょっと意訳しますね。私たち日本国民は、選挙によって選ばれた代表者(国会議員)を通じて行動します。私たちは私たちと、その子供たちや孫のために、他の国と仲良くし、日本中ですべての国民が自由に、のびのびと暮らす世の中を作ります。そして、政府がまた戦争を起こさないように決意し、国の行く末を決める権利は国民にあるということを高らかに叫んだうえで、この憲法を世に示します。

 日本がほかの国とトラブルを侵さず、国民みんなが平和に、のびのびと暮らせる世の中を作る。そして、もう二度と戦争を起こさないように、国民自身がこの憲法を確定するとしました。

 つまり、この憲法は、私たち日本国民が、私たち日本国民のために、自身で制定した憲法ということになるのです。次を見てみましょう。

そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する

 国の政治は、そもそも国民が政治家の人たちを信用して任せているからであって、本来は国民が政治を決定します。そして、代表者が権利を行使して、受ける利益は国民が受け取ります。これは人類が当たり前に持っている権利で、この憲法はそれに基づいて作られています。そして、それに反するすべてのルールを排除するとしたのです。

 つまり、政治は本来国民のものなのですね。政治家たちは、たまたま権利を国民から信用されて移譲されているだけで、本来は国民が持っているべきものなのですね。

 …ううん。実にいい文章です。カッチョイイ文章ってのは、なかなか読めるものじゃありません。この憲法の中身はどうであれ、素晴らしい文章だと思います。前文はこのように、「この憲法が国民によって作られたこと」、「国民が主権を持っていること」、「国民は国際平和を追求し、そのことに誇りを持つこと」などが書いてあります。明確に平和を希求する、日本国民による日本国民のための、世界に堂々たる憲法であることを明記してあるのですね。これが、この憲法のコンセプトです。

 では、どのような憲法なのでしょうか?実際に見ていこうと思います。

第一章 天皇

第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

 それでは、本文に移ります。まずは天皇からです。大日本帝国憲法(以下、明治憲法)において明確に元首とされた天皇ですが、「象徴」という立ち位置になっていますね。

 これは、天皇が日本という国が、日本の国民により一つになっているというシンボルになるという意味です。天皇は日本のシンボルなんですね。

 そして、新憲法では「国民」という言葉が使われています。明治憲法では「臣民」という、「天皇の家来」という意味が込められていた言葉でしたね。それが新憲法では、「国民」という言葉になっています。これは、「国の民」とそのまま直訳できるものです。以前はみんな平等に「天皇の家来」でしたが、新憲法ではみんな平等に「国の民」となりました。

第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。

 さらに、天皇は憲法によって定められた仕事のみをして、政治に関する機能を一切持たないとしました。これも明治憲法とは異なります。天皇は「内閣の助言と承認」によって、つまり政府の許可がなければ仕事を行うことができないのですね。

 天皇の仕事内容は、具体的には第七条に定めてあります。法律や条約を国民に知らせたり、偉いことをした人を表彰したり、国会議員を議会に集めたりすることなどが書いてあります。意外といろんなことが、天皇の名前で行われているのですね。

第二章 戦争の放棄

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

つづいて第二章です。第二章では、戦争の放棄について書いてあります。これは、現行の憲法が「平和憲法」と呼ばれる理由でもあります。最初に、国際問題を解決するための手段として戦争を用いることは、日本は絶対にやらないとしています。そして、その目的を達するために、一切の戦力は持たないとしたのです。通常国際法で認められている交戦権、つまりほかの国と戦争をする権利も放棄しています。

 あれ…?じゃあ、自衛隊は?ということになりますね。自衛隊は、日本の解釈では「軍隊」ではありません。第二項の序文を見てください。最初に、「前項の目的を達するため」と書いてあります。

 つまり、他の国と戦争をするためではない、自分の国を守るための「実力」は持っておいても構わないというのが解釈なのです。ほかの国から攻撃された場合、攻撃から自身を守る権利を「自衛権」と呼びます。例えば某国から核ミサイルが飛んできたとします。撃ち落さなければ、どこかが火だるまになってしまいますね。飛んできたミサイルに自衛隊が迎撃ミサイルを打って落とす権利が、自衛権です。しかし、撃った国に攻めることはできません。それは「自衛権」の範囲を超えているという解釈なのですね。

 この「自衛権」の範囲、日本では、時の政府によって解釈が変わるときがあります。最近では安倍政権による「集団的自衛権」の話題が有名ですね。自分の同盟国が攻撃された場合にどうするか?という問題で、「集団での自衛権」がなされました。

 憲法をどう解釈するのかという問題もあるのですね。

第三章 国民の権利及び義務

第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

 次に、国民の権利と義務について書かれた章です。日本国民は、「基本的人権」が誰にでも侵されることのない権利として、現在の、そしてこれから生まれてくる国民にも与えられます。

 前の憲法では、「法律の定める」という制限が加えられていました。それを新憲法ではぶっ飛ばすのですね。国民の権利は、決して侵されることのない、永久の権利として保障されるのです。

第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

 そして、国民自身の権利や自由は、国民自身の努力で保持しなければならないとしています。そして、いくら自由だからと言って、それを盾に他の人に迷惑をかけてはいけません。常に公のことを考えて(公共の福祉)、毎日を過ごさなければなりません。

 この章では、国民の様々な権利が保障されています。思想の自由(第十九条)、信教の自由(第二十条)。学問の自由に(第二十三条)、婚姻の自由(第二十四条)。これらは、国によって制限されることのない、人がもともと持っている権利なのです。

 権利がある以上、義務もあります。

第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

 子供は教育を受ける権利を持ち、子供を保護している人は、義務教育を受けさせる義務があります。ほかにも義務はあります。全ての国民は等しく、世の中のために働く権利があり、義務があります(第二十七条)。国を動かすために納税もしなければなりません(第三十条)。

 ちなみに、この三つの義務を、「国民の三大義務」と言ったりもしますね。

その他

 ちょっと長くなりすぎているので以降は省略します。その後は内閣や国会、司法のシステムになっていますが、どれも前文や第一章、第三章の枠を出ない、民主的な内容になっています。

 第十章だけ紹介しておきましょう。

第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

この条文により、憲法は国の最高の法規であることを示しています。つまり日本は戦後、ずっとこの憲法のルールの下に動いてきたのですね。憲法から外れたことを、国は一切できません。これが憲法が大事な、最も大切な理由なのです。


おわりに:私たちの行く末について

 いかがでしたでしょうか?この憲法のほうが、明治憲法より優しい感じがしたなと思った方が多いのでしょうか?しっかりと男女平等を明記したり、差別を一切否定したりしていますね。日本の人々の理想を描き出しています。

 しかし、さすがに70年以上も経つと、いろいろと不都合な場所が生じてくるようです。例えば、この憲法はLGBTの人々を考慮していません。彼らのことを憲法に明記して、しっかりと自由を保障することが必要だと私は思っています。

 それと同じことが、現在第九条において議論されていますね。これを変えていいのか、そうでないのか。人によって意見が異なるため、皆さんに聞いてみたいことでもあります。

 憲法は、国の一番のルールです。政治を学ぶなら、まずは憲法から。皆さんも是非、憲法を見てみましょうね!