村岡浩司「九州バカ」【イズミの書評#59】

はじめに:地方の絶望と希望

 私は大学生ながら、インターンをするという手段を用いることによって社会の一部分を見たり、実際に参加することが許されています。インターン先の社長が飲み好きということもあり、私は社長に連れられて街に飲みに出ます。すると、飲み屋の大将やバーのマスターと知り合いになるのです(若干20歳にして飲み屋で知り合いができるというのも考えモノです)。

彼らの作る料理や酒は非常に美味しく、また魅力的です。旅行客や仕事終わりのサラリーマンたちが彼らの元を訪れ、ビール片手に雑談に花を咲かせるのは、お店の成果といっていいでしょう。彼らは自身の幸せのため、また提供するサービスが社会をより良いものにすると信じて日々を過ごし、その一個一個は小さいながらも、確かに街を支えているのです。

 ところが、そうしたお店の努力とはかけ離れ、地方は衰退の一途をたどっています。というより、日本全体が衰退期に差し掛かるという話は、本の先生たちがたくさんしていることです。一億数千万人いた日本列島の人口はこれから100年の時をかけて半分程度になるだろうという予測は、徐々にその片鱗を露わなものにしていきます。そしてそのあおりを最も受けるのが、お年寄りが多く若者が少ない地方なのです。

 当然、この流れに地方は抵抗します。本の世界でもこの10数年間、「地方」「地域」という言葉は大きく取り上げられ、数多くの地方論が書かれてきました。しかし、現状地方衰退の現状は変えられることができておらず、今だ大きな課題として横たわっています。

そんな中「起業」という選択肢を以って、地方衰退に挑む、打ち勝とうとする人物も出現しています。今日紹介する本は「九州バカ」。地方創生の一つの参考として、見ていただけると幸いです。

「九州」そしてイノベーターの存在こそ地元創生だ!

 この本のタイトルは「九州バカ」。著者の村岡さんはこの本のタイトル通り、九州バカなのです。彼は出身地である九州に対して思い入れがあります。多様な文化や食べ物が息づく九州そのものが良いのです。それぞれの都道府県とか、街の名前ではありません。

 彼は元々宮崎の出身でした。企業を志してアメリカに渡るも、失敗して地元に帰ってきます。そしてもう一度起業し、「九州パンケーキ」を開発しました。

 その開発に取り組む際に気づいたことが、「九州」の存在です。日本には市町村を冠したブランドはたくさんありますが、地域全体のブランドは北海道のみであり、他は単なる広域単位以外の何物でもありませんでした。

 そこで村岡さんが思いついたことが、九州を一つのブランドとしてとらえ、価値を創出することでした。九州をブランド化し、一つの大きな価値を持つ土地として発展させる。九州にはそれを実現させるだけのポテンシャルがあるのではないか。

 この単純、しかし独創的な発想がこの本の主軸となります。九州全体という広域単位を一つのまとまりととらえて活動を行う。そして、その主人公は行政ではなく、民間でなければならないと語っています。

 地方創生という言葉は使われ始めて既に久しいものの、根本の活性化につながっていることはほとんどありません。大量消費の時代が終わった今、物理的な活性化は非常に難しいであろうと筆者は書いています。そんな中、未来を切り開こうとする事業の意思と、構想能力とパワーが未来を切り開くのだというのが彼の答えです。

 現代は、一歩先に何が起こるかわからない社会です。過去の方法だけをただただまねていては、すぐに立ち行かなくなってしまいます。それは東京であろうと、地方でも同じ事です。すべての人が大胆な行動を迫られているのです。

 それは地方でも同じです。人口減少が進み、経済も小さくなっていく中、いかにして街を生き残らせていくかは、行政だけではなくそこで生きる地元企業にとっても大きな課題です。

今こそ「九州」の旗を掲げよ!

 今、イノベーションが求められています。私たちは持つスキルや発想を惜しみなく投資して、新たな創生の手段を考えなければなりません。筆者は九州の仲間たちにたくさん応援してもらったと書いています。このように、九州単位で知恵を出し合いながら、ともに戦略を立てて行動することが大切なのです。

 筆者が立ち上げた事業「九州パンケーキ」は、九州を背負って旅をしています。扱っている素材はすべて九州のもの。たくさんの人々がパートナーとなって成り立っているからこそ、九州パンケーキは事業を続けられているのです。

 一つの県や市町村ではできないことも、「九州」ではできます。市町村や県の境界線は、行政上の区分にすぎません。もっといろいろなことを協力して行ってもいいはずなのです。筆者が行う「九州パンケーキ」はその典型です。「九州パンケーキ」は、九州全体で素材を作っていることが重要なのです。

 九州にはそれぞれ、様々な魅力があります。県ごとに見てみると実に多様で、それぞれの強みを持っています。今こそそれを結集させ、団体戦を挑む時なのです。

 筆者は常に元気いっぱいです。九州の可能性を信じ、九州の仲間を信じ、共にこれからも戦っていきます。この本の終わりは、希望を信じた力強い一文で終わっています。

 これからも、共に。前へ、前へ!

おわりに:表裏一体の地方論

 以上が「九州バカ」の全容です。本書は地方創生に「九州」という新たな枠組みで取り組むことを提案し、また筆者自身の経験から地方で起業するということを通じた、対地方衰退の解決案を提示しています。

 この二重構造がこの本の面白いところです。実際に村岡さんが立ち上げた「九州パンケーキ」は各地で成功を治め、メディア取材なども受けるローカルビジネスのモデルケースとして紹介されるにまでに至っているのです。そして「九州パンケーキ」は「九州」という枠組みで作られています。

 実は、地方創生の単位を市町村や県から、それより大きな広域単位にしようとする動きは以前からありました。「地域道州制」というもので、今から数十年前から検討されていたことです。地方に法律を作る権限を与え、より地域単位で大胆な戦略を練ることができるようにするというものです。知識人の中では大前研一さんなどが提唱し、注目を集めていました。

 しかし、根強い反対が霞ヶ関から噴出しており、現在でも地域道州制が制定されることはありません。結局、現在でも都道府県が残り続けています。市町村単位では立法権がなく、大きな政策を打ち出そうとしてできない状態なのです。

そのような中、民間で都道府県を超えた地域単位を作り出すという試みは、非常に自律的で興味深いことなのです。行政がバックアップしないというデメリットを、自分たちで作り出すという起業家精神で補っていく。この本で書かれている二つの主張は、それぞれではなく表裏一体の存在なのです。政策で行われないことを疑似的に行うことを「九州パンケーキ」は実現しました。

 私は、この作戦が起業家のみで成功するのかどうかは懐疑的です。人々から税金を取って地元に大きな影響力を持っている以上、地方創生のパーツになるべきであると私は考えます。しかし、それをさせるには起業家のたゆまぬ努力が必要になると思います。「九州」というカテゴリで活躍する企業がどんどん増え、行政を牽引する。そして、話題に食いついた行政が後からついてくる。この現象を作り出すことができれば、「九州」は再び息を吹き返すのではないでしょうか。